アイツと知り合ったのは、もういつだったのか。

いつも突然現れて、突然消えて。

目をそらそうと思えど、必ず自分の視線は彼女に向いてしまう。



まるで、『逸らすな』と囁かれているように。暗示にかけられたかのように。










時計の長針は既に正午を過ぎていた。
もう午前の授業も終わり、開放感溢れた教室内では、昼食をとったり、歓談したりなど、
各々が思うように過ごしている。


楽しそうな笑顔がちらつく中、独り異彩を放つ少年があった。

男子にしては珍しく、透き通るような白い肌に、濡れたようにも見える漆黒の髪。
全てを傍観しているような捉えどころのない視線には、怖気づく人間も少なくない。

西戒 涼。教室の中心を陣取る彼は、黙ってパック牛乳を飲んでいた。
そのミスマッチさえも、女子生徒の人気を集めるのだろうか。


このまま彼が牛乳を飲み終えるまでに昼休みが終わってしまうのかと思いきや。




バタバタバタバタバタバタ




「涼!涼!りょぉぉぉ――――っ!!!」




遠く小さい騒音は、時間とともに大きくなり、やがて教室内に轟いた。
ドアの開く音とともに、必死の形相をした女子生徒が独り、垣間見える。
騒がしかった教室内を一瞬で沈め、そして視線を捉えてしまった。

その少女こそ、黒安 肆仔であった。

精悍な顔つきに、整った髪を持つ、言わば容姿端麗。
その上性格も良く、人望も厚い人気者さんだ。


そんな彼女は何故か、涼と仲が良い。



しばらく静まり返って、肩で呼吸をしていた肆仔を見つめるが、やがて『なんだ肆仔か』
『よっこちゃーん大丈夫?』と軽い声を残して再び騒がしくなった。
どうやら日常茶飯事のようだ。


一方の涼は、未だ牛乳から口を離さない。



「涼!!りょーうーーー!!」

「うっせーな。あんだよ・・・・一回言えば分かる」


無愛想に答えるが、肆仔はまったく耳に入っていない。
すぐさま涼の元へと駆け寄って、バン、と一枚の紙を机に叩き付けた。
それを涼が覗く。



「・・・・なんだ、コレ」

「追試ィィィ!追試のプリント!こ、小坂がイヤァァァ!!」

「落ち着け・・・」


前髪を両手で握り締めて雄たけびを上げる肆仔を、涼は片手で制す。
うすぺらい紙には、敷き詰められた英文が羅列していた。
落ち着く余地のなさそうな彼女を見て、推測できる事柄を涼が簡潔に述べた。


「つまり、前の小テストの出来が悪いんで、小坂に追試を受け渡された、と。」

「そう!」

「・・・・で、俺に教えろと。」


「イエス!」


涼がもう一度そのプリントを覗くと、あいかわらず英文が並ぶ。
涼の双眸が一気に細くなった。
プリントを凝視したまま渋い顔で、


「・・・・・・なぁ、肆仔」

「何?さっそくアドバイス?いっやー助かるなぁ!さすが秀才涼くん!」

「違げぇ。お前さ、前も俺に英語教えてって頼まなかったか?」

「うん。前の10月の中間の後だっけ」



暦上、今は11月だ。



「そんとき、俺『もう教えることはない、もう全部教えた』って言ったよな」

「・・・・・・・・・・・・・・・・」


肆仔は鋭い視線で問われようとも一切動揺の色を見せない。
きょとんと涼を見下ろしていた。
しばらくの沈黙の後、かくんと小首をかしげながら、


「・・・・・・・だっけ?」

「・・・・・・・・てめ・・・・・・・・・・」




つい一ヶ月前、日付が変わるまで教えてやったのに。
もう抜けたのか。

お前の脳は何で出来てるんだ。





そう 言ってやろうと顔を上げると、
大きな瞳と目が合った。




「・・・・・・・・・・イヤ?」




不安そうに視線を落とす肆仔。
普段あまり見られない彼女のそんな態度に、強気だった涼は
射竦められてしまう。

ふいに視線を横に逸らして、



「――――・・・・イヤ、っていうか・・・・」

「ダメかなぁ。ダメなら澄にでも教えてもらってくるけど」




澄。那波 澄といえば、確か肆仔と仲が良い野郎だったような。
ともすれば彼女を狙ってでもいたような。
気のせいか。

――――とにかく、





「それはヤメロ」

「何で?たしか澄、頭悪くはなかったはずだけど」

「――――〜〜〜ダメだ!」

「じゃあ涼、教えてよ」





とうとう二の句が次げなくなってしまう。


いくらでも教えることは出来るのだ。しかし今回のように
毎度毎度そんな事をしていれば、もちろん自分の身ももたないが、
肆仔の自立心も失われる。そして頼ることによって成績も――――


ちょっと待てよ。この思考はまるで。






「・・・・俺はおまえの親か」



「は?」





素っ頓狂な声を上げる肆仔。
彼女の天然振りには誰にもついていけない。
ああ、負けた。

涼は空を仰ぐ。




なんだかんだ、コイツに振り回されている自分はたのしそうだな、と。


いやだいやだと言っていながらも、いつも彼女を目で追う自分が居て。
彼女を危険に晒したくないと思う自分も居て。
他の奴と一緒に居て欲しくないと感じる自分も確かにそこにあった。







「・・・・どこだよ」

「へ?」


「どこだってんだよ。わかんねーとこ」


「!・・・・・えっとね!!」





夜から昼に一転したかのように、表情に明かりを灯した肆仔。
単純明快な彼女へ、涼は小さく微笑みを向けてみた。
肆仔はそんな貴重な絵には、気づいていないようであったのだが。







彼女が居なければ気づいていなかったんだろうな。


そう思うと、目の前の少女が、たまらなく愛しい存在に見えてきたのだ。







何より孤独を恐れろと、どこかの人間が言ったっけ。
なかなかどうして、昔の人間の言葉は深いところをつく。


思うのだ。もし彼女が居なければ、今、自分はどうしているのか。
孤独なのだろうか。



願うのだ。どうかこのまま、平穏な日々が過ぎるよう。

彼女から、笑顔が消えないよう。
自分が、いかなる場所でも、それを守れる立場でいられるよう。












自分もまた、その笑顔で支えられているのだから。



























放課後。






「でね、ここが先行詞になるから・・・・」


「あ!そっか!さすが乙美!分かりやすい!」


「いや〜よっこちゃんの吸収力もたいしたものだよォ〜」



「そ、そうよね八木くん!私もそう思うわ!!」



「いいんちょ、ムリに話合わせなくてもいいよ」



「黒安さんは黙ってて!!!」












「・・・・・・・・オイ、肆仔」



「ん?何 涼」




「俺にはお前のほかに3人見えるんだが、気のせいか」



「え?だってみんなでやるほうが楽しいしさ、涼も楽でしょ?」



「ご、ごめんなさい涼くん・・私が肆仔に頼まれて・・・・」





「智之が『乙美ちゃんが残るなら僕も〜』って。

 そんでいいんちょが『八木君が残るなら・・じゃなくて!委員長として私も責任が・・!』どうのって」




「結果的に5人でお勉強会になったんだよね〜」



















「――――〜〜〜〜〜〜〜」


















(誰か、コイツにデリカシーってもんを教えてやってくれ・・・・)



























音嬢にステキ小説いただいちゃいました!!!1
ちょ、やばっ… まじでうれしいどうしたら!
音嬢のかかれる涼かっこいいいい(´・∀・`)w
どうもありがとうございました!!!!1

STUDYースタディー

どうか、どうか。




一つの願いをかなえてはくれませんか。